〇、温かさを知らない

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  「またですかっ!」 ダーラの声は虚しく部屋に響いた。 「マリ、早く来て!」 嬉しそうに呼ぶ少女の声が朝の市場の人混みから聞こえた。 短い髪を靡かせ、前髪を額の上できゅっと結び、大きく手をふる少女は、もう一度友人の名前を呼んだ。 「マリ、早く!」 少女の声に急かされ、人混みから少年がひょっこり顔を出した。 少女の様な顔をした少年は、大きな瞳で周りを見回し、大きな欠伸をする。 「はしたないぞ、マリ」 すると少年の後ろから、ウルフヘアの濃紺色の髪と、透き通る様なラピスラズリの瞳を持った青年が、人混みを掻き分けながら少年を叱責した。 「うるさい、チェリー」 「エースだ」 エースと名乗る青年は、少年を軽く睨んだ。 少年は意地悪そうに笑う。 本名はエース・チェイリスと言うのだが、少年は彼をエースではなく、チェイリスを省略させたチェリーと呼ぶ事があるのだ。
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