〇、温かさを知らない

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  「質が悪いのはどっちだ……」 エースはぼそりと呟いたが、マリとナンシーはすでにエースを置いて歩きだしていた。 エースは大きくため息をつく。 「あんな少年が、実はこの国の王女だなんてな」 誰にも聞こえないくらいの小さな声でエースは言った。 そう。マリは男ではなく、まだ成人していない十七の女だ。 そして、マリでもない。 本名はナシェル・ヴァル・マルヴァナ。王都ルクヴルールに在住のルントシュテット王国第二王女だ。 しかし、この場にいる本人とエース以外の人間は、知るよしもない。 王女の顔を見ようとしても、王命で王女は外に顔を出すのを許されていない。 「エース!何をしている。置いてかれたいのか?」 少年の変装をした少女は腰に手をあててエースを呼ぶ。 「今行くよ」 片手をひらひらと軽く振りながらエースは歩きだした。 「ねえ、マリ。どうして二番目の王女様はお顔をみせてくれないの?」
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