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序章
ここは、米国の某所に建てられた刑務所。
建物内は寒気がする程に冷え込んでいる。
個室は鉄格子に囲まれており、隅には低い二段ベッドが設置され、手洗い場と薄汚れた便器が備え付けられている。
ベッドの一段目に寝ているのは年老いた白髪混じりの黒髪の痩せた老人だった。
そして、二段目には茶髪に右にピアスをしている男が寝ていた。
この男は一ヵ月前に入ってきた。罪名は麻薬密売、銃刀法違反だった。
体系は細く見えるが、スポーツをしているのか着ているシャツの隙間から鍛えられた腹筋が覗けた。
唯一ある窓から朝日が差し込むと、老人が先に目を覚ました。
いつものように歯磨き、顔洗いをして寝ていたベッドに向かった。着ていた毛布と枕を片付けて、若い男を起こし始めた。
「なんだ…もう朝か…」
重い身体を起こしながら、機嫌が悪いのか愚痴を洩らしている。重たい目蓋の中からブルーの瞳が現れた。
名はショーン・クローク密売などの取引には全て偽名を使っているため、誰一人本名を知る者はいなかった。
ショーンは、面倒臭そうに歯磨きをして顔を洗った。タオルで顔を拭いていると、廊下に監視官の足音が響いてきた。
べつに気にする事ではなかった。自分には親すら面会に来ない。
17の時に勘当されて、友人の家を転々として悪友と麻薬密売に関わった。
今更後悔してもどうにもならないのだから…
ショーンは20年の有罪判決が出ている。
「ショーン…お前をFBIに引き渡す事になった…」しかし、刑務官は自分の前にきた。ショーンは驚く事もなく、鉄格子の隙間から睨んだ。
刑務官は、鍵を探り鍵穴に差し込んだ。
「FBI?…俺は関係ないぞっ…」
状況が把握出来ないショーンは、刑務官に問い掛けた。
「一緒に来れば分かる…」しかし、刑務官は鉄格子の扉を開けて、ショーンを連れ出すと扉を閉めて鍵を掛けた。残された老人は羨ましそうに歩きだしたショーンと刑務官の背中を見つめていた。
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