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叫んだのはドリタ人だった。
イザヤが後ろを見るより早く、気配の正体が一人で罠に落ち、絶叫した。
ダイクがかかったのと同じ型の罠だった。餌食になったのはイザヤの背中を狙っていたドリタ人だ。自力で槍から抜け出して来ない限り、ここまでは手が届かない距離である。
「罠を見抜いていたのか」イザヤは対峙していたドリタ人に尋ねた。「だから誘いに乗らなかったのか」
首から下を血に染めた怪物は何も答えず、首の剣を振り落とし、ついに憤怒の咆哮を轟かせながら、イザヤに襲いかかった。同胞の苦しむ姿を見て、腹の底でわだかまっていた感情が爆発したのだ。
ジンが急いで立ち上がった。しかし、もう間に合わない。
イザヤは言葉を交わしたことで、無意識に心の構えを解いていた。再び危機がやって来た今になって、対処する暇は無かった。
ドリタ人がイザヤの左腕を両手で掴み、布を絞るように、力任せにねじった。
一瞬の事だった。
急に腕が濡れ、長時間湯に漬けた時のようにふやけた感じがした。
ドリタ人の指の隙間から、鮮やかな赤色の液が少し泡立って流れ出た。
その手が離れると、自分の腕に見た事も無いものが巻き付いているのが見えた。
恐ろしい事に、イザヤの腕は、皮も肉も破れ、筋肉が剥離し、肘と手首を繋ぐ二本の骨が剥き出しになっていたのだ。「巻き付いている」ものは、破壊された腕の組織であった。
イザヤは武器を落とし、よろめきながら、およそ感覚の無い腕を右手で支え、徐々に状況を理解した。あまりの恐怖に声も出ず、ひっ、ひっ、と呼吸だけが荒く乱れた。それから、殺人的な痛みの嵐が、遠い沖から迫り来るのを感じた。
ジンの剣がドリタ人の心臓を後ろから貫いたが、イザヤはその事をほとんど認識していなかった。
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