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ドリタ人は首と胴が完全に離れるまで、必死で逃れようとしていた。
事を終えると、騎馬隊は静かに立ち上がり、動かなくなった細い男の体を見下ろした(一人は彼の短く刈られた髪を取っ手にして、半面血染めの生首を引っ提げている)。
彼らが皆、安堵の表情を浮かべているようで、イザヤには奇妙だった。
気付けば、市民も黙って見守っていた。ざわめきが起こり、人々は元居た場所に戻り始めた。
街の女達が「なんと恐ろしい事でしょう」と話しているのが耳に入った。それは公衆の面前で人が殺された事ではなく、ドリタ人が飼い主の監視下から逃げ出した事についての話であった。
騎馬隊が死体を馬に乗せて、どこかへ走り去った。
イザヤは二人の女に近付き、こう尋ねた。
「あなた方は目の前で人の首が切られても、悲しい気持ちにならないのですか」
肉付きの良い体をした女が、少し笑って答えた。
「不快な気持ちにはなります。しかし、ドリタ人が野放しにされる方が、よほど恐ろしい事です」
「そうですか。冷たい心の持ち主ですね」イザヤは食ってかかった。「あの人は確かに恐ろしい姿をしていたかもしれませんが、だからと言って、彼に何の罪があるのでしょうか。私は、金持ちから逃げ出した為に殺されたあの人が、気の毒でたまりません」
女の笑みが消えたのを見て、もう一人が割って入った。
「よくお聞きなさい。彼らは人ではありません。この女性の旦那様は昔、ドリタ人に脚を食べられて大怪我をしました。それに、悪霊の取り憑いた人種ですから、首を切られようが、死になどしませんわ。見ればお若いあなたにもわかるでしょう」
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