イザヤ 第一章

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 実動部隊に割り振られたイザヤは、上官の動きをしきりに気にしながら、慎重に森へ入った。    定められた間隔を空け、離れすぎず近付きすぎず、十五人が同じ歩調で奥へと進んで行く。    無機質な平和市の街と違い、地面は柔らかく、あらゆる匂いがあり、虫や鳥の立てる不規則な音があり、緑、赤、黄と、表現し切れない色があった。    昨夜はカルスト国の工作員が無事に任務を終えて戻って来た。僅か三人の組で、丸一日かけて、森に新しい罠を複数仕掛けたという事だった。    目印は、特定の木の実の殻を植物の根などに打ち付けてあるだけなので、目立たない。自衛軍が森の中で慎重に行動するのは、ドリタ人を隠密に発見する為もあるが、誤って味方の罠にかからないようにする為という方が先であった。    事実、過去の作戦で、目印を見落として糸鋸が足首に巻き付き、骨まで達する重傷を負ったという人物に会ったことがある。    イザヤは彼の醜い傷跡を思い出して、河で汚した軍用の長靴の強度を、短刀でさりげなく試した。    ――舟が見えなくなる辺りまで進んだ時、後方を歩いていた新人のダイクが突然悲鳴を上げた。    兵士達は一斉に彼の方を向いた。   「大丈夫か」  最初にイザヤが駆け寄った。  どうやら罠にかかってしまったようだ。   「ああ、痛い、足がとても痛い。助けてくれ」  ダイクは両目をしかめて叫んでいる。落とし穴に腰まで入って、膝をついた格好だった。    上官のジンがそこに向かって走り出した。 「静かにしなさい。ドリタ人が集まって来てしまうかもしれないぞ」    ダイクの元まで来て、イザヤは途方に暮れた。 「なんて事だ」    穴の中で上向きに並べて立てられた木の槍が、ダイクのかかとや腿を複雑に貫いていたのだ。酷いものは膝から入って臀部付近から出ている。    ジンがダイクの背後へ回り、両手を伸べた。    最も遠くにいた統率者が、かろうじてここまで聞こえる程度の声でダイクを呼んだ。   「目印が見えなかったのか」
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