45人が本棚に入れています
本棚に追加
ほとんどの者が河の方角へ真っ直ぐに走った。
「直線を走るな。一度通った道だけを行きなさい」
統率者が頭の傷口を押さえながら叫んだ。
イザヤは撤退の命令とダイクの泣き顔の間に板挟みになり、どうして良いかわからなくなった。
ドリタ人達が迫って来る。
ジンが剣を抜き、何を思ったか、ダイクの首を一息に掻き切ってしまった。
「何を――」
息を呑んで言いかけたイザヤに、ジンが怒鳴った。
「走れ!」
イザヤは何かに引きずられるように走り出した。死んで行くダイクを何度も振り返りながら。
今は、追及している場合ではない。
イザヤの近くにいた者達は、ジンについて行った。自分の歩いて来た道を覚えている者など、あまりいないようだった。
五メートルほど後ろで、年長者がドリタ人に捕らえられるのが見えた。自分にまで手が届くような距離に思えた。
イザヤはこれ切り、前だけを見て走った。仲間の安否を気遣う余裕など無かった。
低い呻き声が聞こえた。ドリタ人に捕まった男は、どのように殺されたのだろうか。
前方のジンは、最短の道のりを迂回して河に向かっているように見えた。恐らくこれが彼の進んで来た道なのだ。
ドリタ人は枯れ葉を踏みしだいて容赦無く追って来る。このままでは見張りを呼ぶ前に追い付かれてしまう。
そう思った時、共に走っていた最後の兵士が、列から外れて近道に流れた。彼も同じ事を考えたに違いない。
「ここまで助けに来てくれ。ドリタ人の迎撃に遭っている」
兵士は叫んだ。
見張り達の姿は見えているが、声が届いたかどうかを確認するには、まだ遠すぎる。
狩られるのは我々の方だ――イザヤはほんの少し前につぶやいた言葉を思い起こし、「我々」に自分を含めていなかった事を自覚した。
その時、胸当てで覆った背中に、粘液の弾けるような音と、鈍い衝撃を受け、思わず首をすくめた。後ろから何かを投げ当てられたのだ。さして重い物ではなかった為、驚きはしたが、体勢は崩れなかった。
脇の下を覗き込むようにして確かめてみると、一瞬だが、拳と同じくらいか、それよりやや大きな、体毛の長い動物のような物が血を流して落ちているのを見る事が出来た。
最初のコメントを投稿しよう!