仕立屋の憂鬱

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 お茶会?私の言いたいことを察し、コビト君が先に説明してくれる。 「お茶会にアリスの探し物の手がかりがある」 「コビト君たちは私の探し物知って……」 「アリスの探し物はアリスのものだ」  言い切られ、私は二の句を継げなくなる。 「だから迷ってもいいからアリスが見つけろ」  いつになく真摯な言葉に私は心打たれる。 「いいか。前だけ見て進め」  一文に別の意味が込められている気がして、また会いに来てもいいかなと考えていた私は、迷った末に小さく頷いた。  満足げにでも寂しげに仕立て屋たちは笑う。  私は彼らと一歩距離をとる。 「ありがとう……あの、また会いに」 「さよならだアリス」 「すべておわったらあえるかもしれない」 「お、親方!……ま、まあ。用が済んだら会いに来てもいいぞ」 「うん!」  私は今度は元気よく頷いた。幾ら礼を言っても言い足りないけれど、私は先に進むためにチェシャ猫君の手を取った。 「いこ?」  不安はない。チェシャ猫君を信じている。 『――猫はアリスを騙していますよ』  時計兎さんの忠告が頭の中で蘇り、私はぎゅっとチェシャ猫君の手を握った。
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