猫の狂騒

2/16
2212人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
●●●●  チェシャ猫君がおかしい!  とろんとした紫色の瞳。  喉を鳴らし頬摺り。  わわ。何がどうなって……。 ●●●●  仕立て屋を後にした私とチェシャ猫君は、静かな森の小道を歩いていた。  チェシャ猫君の小さな背中があって。  私は口を開いては閉じるという無意味な行動を繰り返していた。  謝りたいのにまだ謝れていない。  私の勝手な行動を責めたりせず、チェシャ猫は私と一緒にいてくれる。  嬉しい。すごく。  でも、いつまでも甘えていいの?  チェシャ猫君を傷付けてるのに。  アリスと。私を呼ぶ声がしたと思ったら、目と鼻の先にチェシャ猫君が立ち止まっていて、考えに耽ってた私はブレーキが間に合わず衝突した。  衝撃はあったものの、チェシャ猫君が受け止めてくれて鼻をぶつけずに済む。 「ご、ごめんね。ごめ……」  距離を取って、斜め下を見て謝る。  頻りに恐縮してみせる私のよそよそしさからか、チェシャ猫君は目を細めた。 「僕のこと嫌い? 避けてる」 「ち、違う。チェシャ猫君がいてくれたから、私こうしていられるんだものっ」  チェシャ猫君の不安そうな顔。  私は本当に至らない。 「ごめんなさい。ただ……」  私が無事でいる代償を支払うかのように、チェシャ猫君が傷を負うから。 「……私、いつもチェシャ猫君を危ない目に遭わせてるから」  そう。私はチェシャ猫君にとって疫病神だ。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!