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チェシャ猫君がおかしい!
とろんとした紫色の瞳。
喉を鳴らし頬摺り。
わわ。何がどうなって……。
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仕立て屋を後にした私とチェシャ猫君は、静かな森の小道を歩いていた。
チェシャ猫君の小さな背中があって。
私は口を開いては閉じるという無意味な行動を繰り返していた。
謝りたいのにまだ謝れていない。
私の勝手な行動を責めたりせず、チェシャ猫は私と一緒にいてくれる。
嬉しい。すごく。
でも、いつまでも甘えていいの?
チェシャ猫君を傷付けてるのに。
アリスと。私を呼ぶ声がしたと思ったら、目と鼻の先にチェシャ猫君が立ち止まっていて、考えに耽ってた私はブレーキが間に合わず衝突した。
衝撃はあったものの、チェシャ猫君が受け止めてくれて鼻をぶつけずに済む。
「ご、ごめんね。ごめ……」
距離を取って、斜め下を見て謝る。
頻りに恐縮してみせる私のよそよそしさからか、チェシャ猫君は目を細めた。
「僕のこと嫌い? 避けてる」
「ち、違う。チェシャ猫君がいてくれたから、私こうしていられるんだものっ」
チェシャ猫君の不安そうな顔。
私は本当に至らない。
「ごめんなさい。ただ……」
私が無事でいる代償を支払うかのように、チェシャ猫君が傷を負うから。
「……私、いつもチェシャ猫君を危ない目に遭わせてるから」
そう。私はチェシャ猫君にとって疫病神だ。
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