梅雨入り前

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喧嘩した。 否 喧嘩ではない。 一方的に南が機嫌を悪くしただけだ。 切欠など忘れるくらいちっぽけなことだったが。 つまらなそうに、バイクを走らせる途中だった。 梅雨に入る前。 からりと暑い空の下。 白いワイシャツが眩しい。 その高校生を囲むように数人の同い年らの男達。 明らかに真ん中の高校生の分が悪い。 可哀想に。 喧嘩か、いじめか。 信号はまだ赤。 真ん中の高校生がひとりをぶっ飛ばした。 どうやら前者らしい。 逃げずによくやるよ…そう目を細めたところで。 「加持弘毅?」 分が悪い高校生は知った顔だった。 ぐるぐると南の頭が回る。 …気晴らしにはなりそうだ。 加持が後ろから羽交い締めにされたところで、南はバイクで突っ込んだ。 今の気分じゃひとりくらいひいたって構わない。 ずるりとタイヤがコンクリートを擦る。 「なんだテメェっ!」 威勢のいい怒声があがる。 じとりと南に睨まれて、黙る羽目になるのだが。 「暑ぃし、喧嘩すんのだるくねぇ?」 加持に向かって南。 何でテメェがと、明らかに不機嫌を露わにする加持。 しかし、周りには8人の男。 負ける気はしないが確かにだるい。 「後ろ、乗んねぇ?」 「クソッ」 そう促されれば加持は南の後ろに跨っていた。
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