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連れてこられたのは開店前のクラブ。
「なに、南ちゃん勧誘?」
「違うし、沢さん何か飲み物頂戴」
奥へと進む南の後ろをついてく加持。
何やってんだオレ…とも思いながら。
「VIPルーム掃除したばっかだから、汚すなよ~」
含んだ笑いが気に食わない。
加持が睨むと沢さんと呼ばれた男はニコニコと手を振った。
だから、唇を尖らせてますます面白くない顔をした。
「どーいうつもりだよ」
手渡されたドリンクを受け取るが加持は怪訝そうな顔でソレを見た。
「なんも入ってねぇよ、座れば?」
VIPルームといっても格子の仕切り程度で完璧な密室ではない。
色とりどりの灯りはまだ無く、ひ弱なオレンジ色。
外に比べてだいぶ涼しい店内には、極静かに音楽が流れていて目覚めを待っているかのよう。
ムッとしたままソファに座れば体重の分だけ沈んだ。
「別に暇だから、」
隣のソファへ座ると思っていた南は、加持の隣へと腰を下ろした。
しかも
「近ぇし」
どう考えても体の一部が触れるほどの距離。
「なに?」
怯んでんの?
挑発的な南の瞳。
「別に…」
渡されたラズベリーのドリンク。
ソレとは違う甘い香りがふわりと加持を包む。
「今日青木に会う?」
「あ?テメェにゃ関係ねーだろ」
過剰なまでの噛みつきに思わず南は笑う。
どんだけ愛されてんだよアイツ。
「会うか会わないか聞いてんの」
クスクスとグラスにつけた南の唇が笑っている。
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