梅雨入り前

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「クソッ」 悪態をつくもびくりともせず、まだ日に焼けない胸元を南の前に曝した。 その首筋にチュッと口付ける南。 舌を這わせ、鎖骨へ。 ぬぅっと骨の形をなぞり、ちゅうっときつく吸い付く。 「…っぁ」 感じてしまっている。 加持は瞼をきつくとじ、現実を逃避する。 (随分感じやすいのな…青木に仕込まれたか) 上目遣いで加持を見やる南。 (この幸福者め、喧嘩でもしやがれ) ふいと視線を逸らし、胸の突起の横に吸い付く。 きゅぅぅっと、鬱血するように。 「…ぁ…ッ」 ついに加持の腰が揺らついた。 んはっと南が唇を離す。 「…テメェ…何しやがんだっ」 言葉だけは一人前だ。 ふんと鼻で笑う南。 「何って、テメェが何してんだよ。ノコノコ極黒の幹部の後着いてきて…」 ハッと加持が顔を蒼白にする。 今度見た南の瞳は冷たく光っていた。 「青木に護られ過ぎて頭、鈍ったか?」 侮蔑の言葉だ。 もしかして少なからず当たっている言葉に加持はカッとして、思わず手が出ていた。 もちろん、茶化すように笑う南に退けられたが。 「誰がだ!ふざけんなっ!」 あぁ、そうだ。 端からこうして突っぱねていればよかったんだ。 加持は店を飛び出していた。 悔しさとともに。
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