梅雨入り前

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「かぁいそーに、南ちゃん何したの?」 前は肌蹴てたし、泣きそうだったし、さっきの子。 沢さんが奥から出てきた南に声を掛ける。 「何もしてねぇっすよ」 タバコを取り出し火を付ける。 「かわいー子じゃん」 「赤陽の青木の連れ」 「うあ、怖い最強の男のじゃん。南ちゃん報復されるよー」 「されんなら広泰だ、アイツが悪ぃ」 「…あぁ、」 痴話喧嘩か、沢さんは犬も食わないと早々に掃除を再開した。 あぁ、確かにちょっと可愛かったかもな。 さて気も晴れたし帰るかと南も店を後にした。 「…加持?」 そろそろと、自宅に辿り着いた加持を発見したのは青木だった。 びくりと加持の肩があがる。 明らかに何かあった様子だ。 「何で青木」 「…何でって迎えにいくって言ったじゃん?」 じりりと青木が近づけば、加持はそろりそろりと玄関へと向かう。 「おい、」 間近でみた加持の姿。 ワイシャツの前はボタンが飛んで、胸元が肌蹴ている。 両手で隠すその隙間から、鎖骨の赤い痣が見えた。 喧嘩か? 「加持」 「何でもねぇよ、」 喧嘩ならそう言うだろうに、加持は視線を合わせない。 もしかして、その痣は。 「おい、」 肩を掴んで自分に向きなおさせる。 それからバッと手を退けると、胸元にも鬱血の痕。 これは明らかに、喧嘩ではない。 誰かに触れられて付けられたものだ。 「なっ、!」 盛大に眉を寄せ、青木は加持の手を引く。
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