梅雨入り前

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「南さんに何したんだよ、加持」 完全に加持から離れ、青木は元通り。 外にすら出ようとしている。 「おい、」 今度は逆に加持が声を荒げた。 「ん?」 「テメェ、オレがアイツにならヤられたっていーわけかよ」 加持は自分でも自分が腹を立てていることがわかって、ますますいらついた。 これじゃまるで… 「あの人がするわけねぇだろ」 「…するわけねぇって、何だよ。」 お前らなんなんだよ!クソ、ガキみてぇで情けない。 そう思いながらも加持の言葉は荒くなる。 「…かじ」 ふっと青木が困ったように笑う。 まるで、 青木に護られて… 言われたまんまだ。 だから、余計に腹がたった。 「加持、ごめん」 離れていた青木はまた、ドアの前の加持に覆いかぶさるようにする。 加持の両頬に両手をついて。 少し自分より低い加持の額に額をくつける。 「ごめん、そんなつもりじゃねぇけど、許して」 膨れッ面の加持の頬に軽くキスをして、そうして優しく唇へ。 すまないとは思うが、妬いてくれている加持がかわいくて仕方が無い。 ついつい緩んでしまう頬を青木はキスで誤魔化す。 ますます機嫌を損ねては叶わない。 でも、本当に可愛いんだ。 倉庫に戻ってきた南の機嫌は直っていた。 放っておくのが一番だと、先日千葉から習ったばかりの広泰。 よかったと胸を撫で下ろしたが。 「どこ行ってたんすか?」 ふいに聞けば 「んー、赤陽の加持弘毅と遊んでた」 そんな返事が返ってきた。 本当に無自覚だった。 広泰の頬が緩んだのは。 そう加持の名前に。 好きだとかそんな気持ちはとっくに昇華されてはいたのだが。 ギロリと南の瞳が光る。 「ふざけんな!お前!」 ゴミ箱化としたダンボールを蹴って、南が倉庫を再び出ていったのはすぐのことだった。
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