好きな人をおとす方法③

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『何やってんの』 「…テレビ見てんだよ」 『まだ起きてた?』 「今寝るとこだよ」 『お前あの歌買った?』 「もってるけど…」 何なんだと、椎名は思う。 自分ならまだしも、毎晩電話を掛けてくるのが小田。 お陰でドキドキして眠れやしない、毎晩毎晩。 昼間吉本にも酷い顔だと言われた。 思わず、布団に入りながら自分の頬を両手の平でびーっと引っ張った。 その横で、携帯が着信を告げる。 見えるわけでもないのにバッと手を離し、携帯を手にした。 ゆっくりはたりと開けば、やっぱり小田の名前。 「なんで…毎日毎日掛けてくっかな…」 頬が緩んでいる。 これこそまた誰も見ているわけではないのに、それを我慢して気難しい顔をする。 一息ついて。 「…おう、」 『起きてた?』 「…まぁ…」 落ち着かず横になる。 視界に入る布団の端を摘みながら。 バクバクする心臓がいやで。 出る言葉は 「…なんだよ」 『別に何でもねぇけど?なぁお前さっきのテレビ見た?』 「…あー犬の話?」 『そうそう』 大抵どうでもいい話。 こんなにドキドキするなら早く終わってしまえと思うも、切れて欲しくないとも思う。 そんな複雑な椎名。 わしゃわしゃとタオルで短い髪を拭きながら、携帯を片手に小田。 親の寝たあとのキッチンから牛乳を取り出して、器用にコップに注ぐ。 携帯の向こうには椎名の声。 すごく緊張してるのが伝わってくる。 ぎこち無い声。 (かわいーの) からかい半分に、声を聞きたい気持ち半分。 トンと足で冷蔵庫を閉めて。 「あ、もしかしてもう布団中?」 『…んだよ、もー寝んだよ』 「あぁ、そうじゃぁ、」 言いかけたところで、 『別にすぐじゃねぇけど…』 どっちだよ、思わず牛乳を口にしようとした唇が笑った。 「あ、そう。椎名パジャマ?んなわけねぇよな?あ?オレ、今風呂上がったとこパンイチ」 暫しの間に、 (あ、今想像しやがったな) そんで想像してどーすんだよ、 薄暗いキッチンの椅子に座りコトリとコップを置いて。 窓の外を見れば三日月。 (言わせてぇー) 裸のオレにどうするのか、どうされたいのか。 「なぁ椎名、外、月キレーだぞ」 『…ん、あ?』 きっと、起き上がって外を見たのであろう。 『あー、だな』 やっと普通に喋ったな、小田はそう思った。
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