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「ん、遅くなった」
灯りの下に出てきた加持は、まさに喧嘩のそれで。
ぐいと、ニットの袖で拭った口元には固まった血の跡。
「加持!?」
驚くも、そういったことは珍しいことではない。
聞かなくてもわかるそれと、聞かれることを加持があまり好まないのを知っていて、青木は深くきくことはできない。
ただ、常備された救急用具を取り出した。
「悪ぃ、」
あとは自分でするというのを無理やり取り上げて、手当てする青木。
また加持もそう言って突っぱねると、青木が気を悪くするというか逆切れする勢いなのを知っているから、仕方なくちょこんと座って黙った。
こんな日なのに、と思った。
いや、別に意識する日じゃないしとも加持は思う。
いや、本当こんな日なのに勘弁してくれよと青木は思う。
黙々と、擦った指の関節だったり、痣になった脇腹だったり手当てして。
刻々と時間が過ぎる。
結局青木にはたいそうな料理を作る技能を持ち合わせてなくて、ピザとか取るかなんて話になる。
待ってる間にビールを開けて、適当に摘んで。
そんなうちに、やっぱり青木は言いたくなる。
しかし喧嘩なんてもんに遭遇してた加持に、チョコレートなんて言うにはよっぽど無神経にならなくてはいけなくて迷う。
本当に、仕方ないだろう。
体だって怪我しているし。
今日はいろいろと諦めて、と。
「も、寝るか」
譲歩しても帰す気は青木には起きなくて、食べたものもそのままで、後ろのベッドにのそりとあがろうとしたところで。
コツンとその肩、肩甲骨らへんに音がした。
足元に落ちる包まれたつぶれた赤色の箱。
「…中身、どーなってるかわかんねぇけど、」
いや、いま投げたらともどこか思ったが。
きっとコンビニに多く陳列された中のひとつだろうけれど。
正方形の箱を取る青木の手が微かに震えた。
「……加持…」
「…体、痛ぇし、寝る」
呼んだ加持と視線は合うことはない。
そっぽを向いたまま、青木の横を過ぎて、加持はごろりと横になる。
その、背中がものすごく愛おしい。
ああ、何で今日という日に喧嘩なんて売ったんだよと。
背中から思いっきりぎゅうと1度だけ青木が抱きつけば、痛いと叫ばれ。
横から見た耳元が赤いのに、やっぱり喧嘩を売った連中を青木は恨まずにはいられなかった。
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