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遂に、佐伯の口から発せられた真実。とはいえ、あまりに唐突だったので、少し困惑する。
「……ずいぶんとあっさり言ってくれるんですね……」
「それをあなたが言うの? そこまで知られた以上、もういくらシラをきっても無駄だろうしね」
「そう、ですか……」
「ええ。
……それに、今更知られたところで、もう意味はないもの……」
「……?」
呟くようなその佐伯の言葉を条一は少し怪訝に感じた。
がしかし、それよりも今はもっと佐伯に聞かなければならないことがあったので、一旦それは頭の隅に置いておくことに。
「それでは話を戻しますけど……やはりあなたは佐伯綾乃さんではなく、千鶴さんということでいいですよね……?」
「そうよ。私は、五年前に事故で死んだとされている、佐伯千鶴本人。まぁ、信じられないと思うけどね」
そう言って佐伯改め千鶴は、微笑を浮かべる。
ふいに、条一の頭の中で何かが引っかかった。妙な違和感を感じとった。
なんだ? 変だ。彼女は様子がいつもと違う気がする。
彼女はこんなにも饒舌な人間だったろうか?
しかし条一のその疑問が解決される前に、千鶴は再び会話を再会する。
「―――あの日、五年前の事故の時……私と綾乃は二人揃って下校してた。そして突然、あのトラックが突っ込んできたの」
「…………」
「正直、もうダメだと思ったわ。あんな鉄の塊が猛スピードで迫ってくる恐怖。あなたに分かる、天条君?少なくとも、私は無理。恐怖に襲われて動くことすらできなかった。
……でもそのとき、恐怖にすくむ私の体を、妹の綾乃が突き飛ばしたのよ」
当時のことをも思い返すように、佐伯は空を仰ぎ、そしてその悲しげな瞳に、曇天を映す。
「あなたはもう聞き込みか何かで知ってるだろうけど……小学校の頃の綾乃は、"今の私"のように、物静かで落ちついた性格の子だった。
だから、明るく誰とでも接することができた"昔の私"は、いつも姉として綾乃を助け続けてきたの。
……だからこそ、そんな綾乃に助けられた時は驚いたわ」
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