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「神様なんてもの信じてなかったけど、これは天の救いだと思ったわ。
私が、殺し屋……すなわち裏社会の第三者に殺されたとなったら、もしかしたら両親は諦めがつくかもしれない」
「なるほど……。
裏社会に助力を求めたことがある両親ならば、裏社会の理不尽さと恐ろしさを十分熟知しているはずですからね……」
「そう。正解。
それに、殺しを生業とする人ならば、私を殺したとしてもその人に迷惑がかかることはない。
だから、誰にも迷惑がかけることなく、誰の心に傷をつくることなく、私は死ねるはずだった。
……依頼した殺し屋が、あなたじゃなければ」
そう言って、千鶴は軽く条一を睨む。怒りや憎しみがこもっていない、薄っぺらで奇妙な睨みを浮かべて条一を睨む。
「あなたは、殺し屋のはずなのに。雪城さんが薦めてくれた優秀な殺し屋であるはずなのに。
あなたは私の命を奪おうとしない。それどころか、私の過去を詮索しようとしてくる。……何度も何度も。私が忠告しても聞かず、何度も何度も」
「……それ、は……」
「ダメなのよ。それじゃあ、ダメなの。私は死にたいの。一刻も早く命を失って、解放されたいのよ。
だというのに、あなたは一向に分かってくれない。それが、一体どれだけ私を苦しめたと思ってるの?」
千鶴は訴える。
悲痛な声で、震える声で、今にも泣き出しそうな声で。
その言葉に、条一は言い返すことが出来ず、ただ受け止めるのみ。自分の今までしてきた残酷な仕打ちに、大きな罪悪感さえ抱く。
「……それに、あなたが私の過去を詮索していることも大きな問題だった。
私が本当は佐伯千鶴だという事実は、両親が必死に隠蔽したもの。
だから、両親は許さない。真実を暴こうとしているあなたを決して許さない。それはつまり、あなたが危険な目に遭うのは明確だということ」
「……ということはやはり、あの時、裏社会の人間に俺を襲うように依頼したのは……」
「……私の、両親よ。
分かっているはずだったのに、私は止めることができなかった。両親の暴走を、止めることができなかった。
このままでは、あなたが両親に潰されてしまう。あなたが危険な目を被ることになってしまう」
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