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―――――。
「…それでは、これからよろしくね、条一君」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします…」
時刻は、昼。
畳の厳かな匂いが香る和室。
温かな太陽の光を受け、眩く輝くその室内で、一人の少年と男性が向き合って正座をしていた。
男性の方は、歳は30台前半くらいだろうか。顎に生やした無精ひげが目立つが、精悍な顔をしており、まだまだ若さが残っているように見える。
対して、"条一"と呼ばれた少年は非常に幼い。6、7歳程度だろうか。彼は小さな握りこぶしをギュッと膝の上で握り締め、そして若干緊張した面持ちで男性のことを見つめている。
歳も雰囲気も全く違うこの二人が、なぜこうして向き合って正座をしているのか。
何も知らない一般人が見たら、これは相当不可思議な光景だろう。
「ははは。そんなに緊張する必要はないよ。これからは家族なんだ。遠慮する必要も無い。堂々としたまえ」
「が、頑張ります…」
明らかに自信のなさそうなか細い少年の声を聞くと、男性はよほど愉快だったのか、声を上げて笑い始めた。
上品とは言い難いが、その分豪快で、見ているこちらが気持ちよくなってしまうほどの清々しい笑い。
男性はそんな笑いを数秒続けた後、ようやく落ち着いたのか、笑い声を押し殺して言葉を続ける。
その顔が未だに微笑み続けているということは言うまでもないが。
「いやはや、その謙虚さが君の長所なのかもしれないけど…まぁいい。
…さて、条一君。それよりも、実は君を養子に迎え入れるの当たって、一つだけ話しておきたいことがあるんだ」
「話したい…こと…?」
「うん。まぁ、といっても、大したことはない。
私の…いや、この家の仕事についてだよ」
微笑みを浮かべながらそう言った男性の顔を見て、少年は首を傾げる。
どうやら、彼にも男性が何を言おうとしているのか皆目検討がつかないようだ。
「えっと、仕事って、何をしているんですか…?」
おそらく、好奇心からの言葉だろう。
オドオドとしながらであるが、自ら疑問に思ったことを男性へと投げかける少年。
そんな彼の様子に男性は満足そうにうんうんと頷く。
そして、少年の問いかけに答えるために、彼はゆっくりと口を開いた。
先ほどと変わらず、
顔には微笑みを浮かべながら。
「私の仕事はね。殺し屋さ」
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