オリエンテーション

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「すまん!遅れたー!」 全力疾走で牧草地を駆け抜ける翼 直人が呆れ顔で待っていた 「皆行っちまったぞー」 翼はぜぇぜぇと荒い息でその場で座り込むと 黒毛和牛が近付いてきて翼を舐め回した 『マジうまそう』 翼は目を丸くして牛から離れる 「ウマくねぇぞこの野郎」 牛は驚いた表情で逃げ出した 『喋ったぁー! キモぉー!』 翼は何も言わずに直人に返答した 「まじかよー! 畜産結構楽しみにしてたのになぁー…」 翼はゆっくり立ち上がると、直人に頭を軽く下げた 「待たせてごめんな! さ、行こう!… って…次どこだっけ?」 直人は苦笑いで地図を見せる 「次はハウス野菜だよ トマトとか色々」 ふむふむと言いながら翼は頷く 「うっし!行くか!」 風をいっぱいに受けながら翼は駆け出した 「遅れましたー! 先生、今皆何やってるんすか?」 やっとこハウスについた翼と直人 ハウスの入り口で空を見上げる先生に話しかけた 「お… やっと来たんだな黒澤と高橋 今春トマトを皆で収穫して味見してるところだ」 翼と直人は顔を見合わしてニカッと笑った 「よっしゃ!いいときに来れた!行くぞ直人!」 翼はそそくさと軍手をはめてハサミを持ち、カゴを片手にハウスに駆け込んだ 「よし!俺も!」 意気込んで直人も駆けだす 「後五分だけだぞー 急げよー」 先生が腕時計を見ながらにまにまと笑う 「うし!頑張るか!」 ハウスに入って早々に良いトマトのなっている場所を見つけてしゃがんだ だが… 周りから人間以外の叫び声やらなんやらが聞こえだした 『仲間がドンドン食われてゆく…』 『食え!食うがいいさ! ぎゃー!!!』 『おいしいと言ってくれて… ありが…とう…』 無駄にうるさいトマト達を無視しながら翼は目の前の大きく綺麗なトマトにハサミをいれようとした 『私を食べるんですね…』 翼は躊躇してはいけないと返事をする 「あぁ、美味しくいただく」 トマトは驚いて翼を見つめる 『私達の気持ちが分かるんですか?』 翼は無言を貫こうとただ黙る そしてハサミを入れた 『うぁ… 美味しく食べてくれるのなら…本望です…』 切って少し弱ったトマトを見て翼は唸る 「な、なんて厄介な力なんだ… 食いづらい…」
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