オリエンテーション

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『憎い憎い!人間が憎い!』 巨大化した猪は今にも体育館内の人々に突進しようとしていた 「お静かに 校長講話を続けます」 生徒は着席してざわめきがおさまる 吹っ飛んだ壁あたりに先生方が集まり色々話しているようだが… 実際目を向けなければならないのは目の前の荒い息を吐く猪 翼は立ち上がって猪の前まで突っ走った 「お、おい翼!校長先生の話し中だぞ!」 直人が後ろから小声で言った気がするが、翼は既に聞く耳を持っていない 「お前はなんでそんな怒ってるんだ!」 静寂の中で叫ぶ意味不明な言葉 生徒や先生方からざわめきが生まれる 「こら黒澤座りなさい!」 先生が止めに入るが、翼は猪の瞳を見つめたままであった 『ほう…不思議な人間だ…話せるのか』 少し感心を持てたのか猪は落ち着き始めた 「お前の怒りってのを静めてやりたい」 猪は翼に顔を向けて話し出す 『元々この辺一体は我らの聖なる土地であった… だがお前ら人間が木を次々に伐採し、我らの土地を奪ったのだ…! 向かい打てば仲間は銃殺される!そんな勝手な人間に仕返しをしたいのだ!』 翼は黙って聞く他なかった 山を切り開くのは人間の土地を増やすため 銃殺するのは怪我人が出るから 人間として恥じるべき点であることを今一度考える 「すまない…!俺だけ謝っても駄目なのかもしれないが… この通りだ! 山に帰ってくれないか?」 誰に謝ってるんだ? 生徒達は翼を見ながら疑問視する 猪は翼を見据えたような瞳で見つめた 『無理な話しだな! 人間全員が頭を下げた所で私の怒りは消えぬ!』 そう言うと同時に猪は牙を振るい、突進の準備に入った 「ま、まずい! この列全員逃げろッ!!」 聞くはずもない生徒達 呆然と見つめられる翼はやるせなくなって唇を噛み締めた 「お願いだッ!逃げてくれぇッ!」 怖じ気づいた生徒達が次々にその列から離れていく だが一人の女子だけがオロオロとしていた 「ちぃ!」 『ぐがぁあああッ!』 怒り狂った猪が一直線に突っ込んで行く 「わッ!?」 翼はその女子を抱きかかえて横に飛ぶ ズガァアアンッ! 椅子を吹っ飛ばしながら突っ込む猪はそのまま壁に激突した 翼は生徒達の中に突っ込んでもがく 「ふぃー…アブねぇ…!」 翼は起き上がると女子に苦笑いした 「大丈夫だったか?ごめんな」 女子は突然の出来事に顔を赤くして頷いた 翼は突っ込んだ生徒達のブーイングを受けながら猪に向き直る 「俺は仲間を守る」
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