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いきなり得意なものと言われても、答えられるはずもない。
「……ないですよ」
【あります。ヒトには、必ず】
「そんなこと言われても…」
ため息を吐いて、その球体から手を離そうとし…
「離すな!」
「ひっ!?」
恭が怒鳴った。
元々怖いのに、怒鳴ると更に怖さは倍増する。
「ソイツから手、離すと地獄で闘うハメになんぞ」
「はい……ってなんで知ってるの…」
「俺が行ったから」
つまり離しちゃったのか。
コウは離さないようにして恭を見た。
「えっと、富文さん」
「あ?」
「富文さんは…何が得意なんですか」
「…………」
少しの沈黙。
恭はニヤ、と笑って答えた。
「喧嘩」
「……………へぇ」
見るからに不良っぽいもんな。
人を見かけで判断するのはどうかと思うが、今日くらい許してくれ。
「テメーは何かねぇのかよ」
「…特には」
腕を組んだまま、視線だけで此方をみる。
コウは沈んだ様子で答えた。
「は?ねぇ?バーカ、テメーが見つけねぇだけだろうが」
が、帰って来た言葉は予想とは違った。
一言で済まされる、と思ったのだ。
「探せよ。俺はこの部屋から出てぇんだ。ちゃっちゃと終わらせろ」
「う…は、はい…」
自分の、得意なもの。
得意な…
得意な。
【特技でも構いませんよ。とにかく、人に自慢出来る事を】
「自慢…」
これは、あれだ。
入学式の次の日に書いた自分のプロフィールに似ている。
必ず、『特技』の欄や『自慢出来る事』等の欄があるものだ。
空欄は作っていけなかったので、適当な嘘を書いた気がする。
「特技……自慢…得意…」
なんだ。
自分の、特技、得意なもの。
母親は何と言っていたか。
確か……そう。
『コウは、笑顔が凄く素敵ね。ずっと笑っていれたら最高よ』
「あ……」
母親が、唯一飛び抜けていると褒めてくれたもの。
それが…
「笑顔」
「は?笑顔ぉ?」
恭は思いきり怪訝そうな顔をする。
「ろくに笑ってねぇじゃねぇか、お前」
「それでも……コレが俺の誇れる事なんだ」
今は笑えない。
母親が借金の保証人になったあの時から。
すると、球体が語りかけた。
【インプット終了。……では始めます】
部屋がグニャリ、と変化してゆく。
マーブルみたいに混ざりあって…。
「おい」
「はい?なんですか?」
勿論、球体からは手を離さない。
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