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「あの人はお隣さんだ。つーかお前、勝手にアポなしで来るなよ…」
「来なきゃ恐らく飢え死によ。感謝しなさいよ!しかも、見た感じバイトしてないよね?」
「当たり前だ。飯と金稼ぐ暇があれば、俺は知識を頭に叩き込む」
「死ぬぞ秋斗…にしても、あのワニ気持ち悪いね。何であんな覆面するんだろうね?」
あ…そう言えば確かに。黒子とはあんなに気軽に話しをしていたが、改めて指摘されると確かにそうだ。前に見た時、ワニと首の境目には何針か縫った痕もあったな。
「にしても面白いよね、武装って言う割には“鯨”って名前。何でだろう?」
「葬儀の基本だよ」
「えっ?」
「葬式の幕を“鯨幕”と言うんだよ。過去問にもそんな問題あったぜ」
「…あのさ、まさかと思うが…先程からあんたが開いている辞書って過去問?」
「ああ、しかも去年分のみ」
「無謀にも程があるわ…」
「言うと思ったぜ。それでも、試験は5年に1度きりだ。諦めてたまるかよ!」
それを聞いた途端、香織は台所で大爆笑をした。俺なんて世間から見れば、典型的な熱血バカの例だしな。香織は爆笑しつつも、着々と料理を完成させた。
「バカもそこまで極めたら神だわ。言ったからには、必ず合格の知らせよこしなさいよ。炊事洗濯は私がするからさ」
「つまり住み込みか?だったら断る!」
「そう、まあ良いわ。住み込みはしないけど、また料理を作りに戻るから。頑張りなさいよ」
「ああ、ありがとな」
料理を作り終えると、香織はある段ボール箱を置いて帰った。段ボールの中身は、俺の衣類と食料。そして、瓦礫の中にあった父の祭壇の欠片だ。祭壇を見た途端、幼い頃に聞いた父の言葉を思い出した。
“死ぬことは、決して悪い事じゃないし罪じゃない。二度と会えないが、決して眠った訳じゃない。旅立ちなんだ。故人の旅立ちを盛大に盛り上げ、霊柩車で旅のルートをサポートし、最後は三途の川の渡し守の所まで見送る。それが葬儀屋だ”
段ボールの中身を見た後、俺は台所の料理に気づいた。蓮根のきんぴら、卯の花、そして味噌汁。炊飯器にはご飯もセットされていた。試しにきんぴらを食べてみて呟く。
「父さんの祭壇か…ありがとな母さんに香織。でも、香織のきんぴらは味が濃いぜ…」
何故だか、俺の目から涙が流れ落ちた。より一層、後には退けない状況となった。
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