9人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、俺は寝る間も惜しんで勉強を続けた。机と向き合うばかりじゃ身体が鈍るので、毎朝と寝る前は必ずランニングをした。金に余裕さえあれば、ゲーセンのクイズゲームで実践もした。
そして遂に当日…
「服と洗面道具、あと過去問に筆記用具に…」
「あんた、忘れ物よ!」
「ああ、忘れ…って香織!?」
「持ちなさい!」
「何…招き猫のストラップ?」
「御守りじゃ、ママさんのパクリじゃない。だから、私からは招き猫よ」
「招き猫は金銭だろ…」
渋々俺は招き猫のストラップをポケットにしまった。何せ、香織の顔が真剣そのものだったからさ。
「思ったんだけど、何で着替えなんて持っていくの?」
「試験期間が1ヶ月と2週間らしい。その間、鯨の施設内にある寮で泊まるらしい」
そう、鯨の試験は1日や2日で終わらない。筆記・運動・面接の3つだが、運動に関しては何故か1ヶ月費やすのだ。
更に凄いのは、鯨に入るのに資格は問わない事。年齢も有名な資格問わず、国籍は外国人でも可な上に、前科持ちやヤクザも歓迎らしい。しかも受験料もタダだ。
「必ず手帳見せてよ」
「その時はキスするんだろ?」
「あ…あっ当たり前よ!女だって二言はない!」
「無理すんなよ。別にお前のキスなんざいらないし」
「あんたって奴は…」
「じゃあな」
荷物の確認も完了し、俺は靴を履いて部屋から出ていった。香織は結局玄関までしか見送りに行かなかったが、俺にはその理由が分かっていた。
あいつ意地っ張りだから、俺にデレデレした態度なんてとりたくないんだ。俺にはその方が都合がいいけどな。
俺は、鯨の本部…いや、決戦の地へと向かった。
「秋斗…苛められっこだったのに、たくましくなったな。私、追い抜かされちゃったかもしれない…」
俺が去った後、香織は少ししょっぱくて悔しい涙を流して、窓から俺が見えなくなるまで手を振ったのでした。
最初のコメントを投稿しよう!