1万分の鯨試験

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バスを乗り継ぎ、電車に乗ってまたバスに乗ること6時間後… 「うわーすげー!」 ビルが建ち並ぶ首都トーキョーに到着した。 バスから降りると、田舎とは全く違った景色が目に留まった。高層ビルに車の列、沢山の店や人々。俺には驚きと興奮ばかりの光景だ。 「住所はえっと…何だよコレ?複雑だな…」 住所と地図から見れば、恐らく海側にあるのだろう。ただ、そこに向かうまでに夕方にならなければ良いが。兎にも角にも、俺は鯨の本部へと向かった。 「あのみるくって奴…子供なのに鯨って言ってたな。改めて凄いぜ鯨は…」 移動すること2時間後、道に迷いつつも無事に鯨の本部に到着したが、鯨本部の見た目に俺は唖然とした。 「何だコレ…」 周りは城壁に囲まれた、まさに鯨並の堂々たる風貌だ。門からは何台もの霊柩車が出入りし、その度に重い扉が開閉した。しかし、辺りを見回しても受付らしき入口は見当たらなかった。 「何処から訪ねれば…おや?あれは…」 目に留まったのは、警備員の小屋。試しに俺は警備員に聞いてみることにした。 「あの、すいません」 「なんだ若僧?」 「鯨に入りたいんですけど、新人募集とかってありますか?」 「お前さん運良いなだな…ギリギリ間に合ったぜ。勉強し過ぎてエントリーに遅れたのか?」 「勉強し過ぎて?いや、全く知らないで来たんですけど…でも俺、こう見えて元葬儀屋だから大丈夫!」 しかし、何故だか警備員は溜め息をついた。絶望視したような目で俺を見て、戸棚からあるものを渡した。 それは、広辞苑並にデカくてぶ厚い本だ。 「お前さんは運が悪い。こいつは鯨の筆記試験の過去問集だ。しかも、去年分のみでだ」 「え…嘘ですよね?」 「お前さん、身体なら大丈夫そうだが…そいつを3ヶ月以内に暗記できるか?普通の受験生なら、2年前から勉強と体力作りをするぜ」 希望の光は所詮一時だけのようだ。去年分だけでも半年なければ不可能だろう。更に、警備員曰わく試験は5年に1度きり。 「今年は諦めて、5年後に来たらどうだ?流石に3ヶ月じゃ無謀だ」 「でも俺…約束したんだ。両親にも、幼馴染にもな。皆の期待は裏切りたくないんだ!だから頼む、試験にエントリーをさせて下さい!お願いします!」 此処まで来て諦めるなんて、俺の中には無かった。確かに9割方は不可能だが、1割に賭けても罪にはならない。俺は警備員に何度も深々と頭を下げた。
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