三章

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翌日から2日間は、休日で、 わたしは本屋の仕事もなく、 ただずっと部屋にこもって、 絵の制作にとりかかった。 寝てはいたと思うけれど、 珍しく夢も見ない。 御影さんに会わなければ、 夢を見ないのかもしれない。 日曜日の夜更けに、 最後の仕上げを終えた。 2日間で、3枚の絵を 描き終えてしまった。 20号のキャンバス3枚を この期間で描き終えたのは 初めてだった。 一枚目は、 初めてあの夢を見たときの草原に、 ひとり女の子が佇む絵。 揺れる白いワンピース、 うつむく彼女は、後姿で 何かを待っている。 二枚目は、 月明かりの夜、 影を映す湖の上で、 やはり女の子がイカダに乗って、 うずくまっている絵。 三枚目は、 一番最近夢に見た、 あの不思議な本屋さん。 ラベンダーやチューリップが 咲き乱れる床に、 女の子が本に埋もれて 横たわっている。 風景画をアクリルでやっていたわたしにとっては、 初めての抽象画だった。 それでも、 まだ描き足りない気持ちでいっぱいだ。 御影さんといた夢の中の世界は、 未だに色も匂いも、 空気の温度だって思い出せるのに。 なぜだろう、 こんなに創作意欲がかきたてられたのは、 久々かもしれない。
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