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店の奥に行く足を止めて、
わたしは
顔が赤くなるのを感じながら、
一歩だけ御影さんに近寄った。
「あの、何読んでるんですか」
わたしから話しかけたのも、
そういえば初めてだ。
すると、彼は背表紙を
わたしにわかるように見せ、
「・・・これ」
と言った。
「・・・あ」
そこには、"夜猫となみだ"
と書かれていた。
わたしがよく暇な時間に
ここで読んでいた本だ。
「それ、わたしも読みました、あの、」
どうしよう、
なにを言えばいいんだろう
どうやったら会話が続くだろう
「あの、おもしろかったです!」
・・・
「・・・」
「・・・」
沈黙・・・・・
だめだ、
答え方を間違えてしまった、
といっても、
だからって何といえばよかっただろう。
いつもの気まずい沈黙が流れる。
現実の御影さんの前では、
どうしてだか、
緊張してうまく言葉がでてこない。
自分の言動が
どうにも恥ずかしくて、
そこから逃げてしまいたくなった。
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