クスリ売りの行商人

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少女はただ泣きじゃくるばかりで、それが余計に苛々するのかとうとう手まで出してしまった。さすがのガンも傍観を決め込められないようで、弾かれた瞬間に牙を剥き母親の右手に噛み付く。 「この、何をするのよ!!飼われている分際で!!」 こちらからの言葉は通じないが、牙を剥くその態度だけで意思表示はできている。 そしてありさの盾になるように、ヒステリックな母親を野生の眼光で睨んだ。 「普通の女の子が!こんな事されてたまるかよ!毎日泣いてるんだ!追い込まれて殴られて、それなのにこんなクソくらえな両親に気に入られようと必死なんだ!それが、お前に分かるか!!」 「分かりますとも」 その返事が、その即答が意外すぎたのか―――ガンが母親から目を逸らした瞬間にヒステリックな態度のまま彼女はドアを荒々しく閉めて出て行ってしまう。 だがそれを追う気は当然なく、どちらかと言えばロク介の言葉の真意を知りたい所である。 勿論、ロク介のこのキャラを思えば適当にはぐらかされそうな気もするが。 「ごめんね、ロクちゃん。ほんとはね?もっと優しいお母さんなの。今日はちょっと苛々してるだけなの」 殴られた左頬を抑えながらも、必死に弁明する姿が痛々しい。 そしてロク介は、ずっと背負っていた包みをゆっくりとカーペットの上に置き、風呂敷の結び目を解いていく。 「僕がクスリ売りになったのは、僕自身の為です。僕の我儘の為だけに、我儘な願いの為だけに流浪の行商人をしています」 「我儘な願い?」 まるでその時だけは言葉が通じたかのような―――ガンとありさは同じような表情で見つめ返してくる。 「先程、言いましたよね。僕の両親は生きていると」 「まさか、嘘だったのか?」 「嘘は申しませんと言ったでしょう。ちゃんと、生きてます」 だが、ロク介は再び悲しそうな瞳で俯いてみせる。 先程と同じく、その辛そうな顔だ。 そして、衝撃的な発言はゆっくりと届けられる。 「・・僕の親は、両親共に人間なんです」 「―――ッ!!?」
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