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人間が猫を産むなど、有得ない。
そんな不可思議な顔をしてしまったのか、目の前の商人は風呂敷をゆっくりと解きながら苦笑してみせた。
「だから、僕は猫だったから捨てられたんですよ。人間に言葉が通じるのも、多分そのおかげなのでしょうね。けれど、神様は残酷な事をなされた。その時は、恨んだものです」
「神様の悪戯、なのか・・?いや、人間からお前が生まれてくる現象そのものが世の秩序から大きく外れて―――」
時に哲学に、現実的な発言をするガンだ。
ツッコミ体質だけに頭の回転もいいのだろう。
「けれど捨てられて間もなく、不思議な事が分かりました。全ての人に僕の姿は見えず、それはとある条件を持つ人にしか見えないのだと」
「それが、心を窮屈な思いをしている人間、なのか」
「だから僕は、神様にお願いをしたんです。・・・どうか僕を、人間にしてくださいと」
悪戯をしたのが神様なら、願いを叶えるのも神様か。
誰よりも一番残酷に振り回されているのはロク介ではないか。
それでも彼は、可笑しそうに笑うのだ。
「そしたらその晩、夢に神様が出てきたんです。その為には人を知らなければならない、もっと色んな人に出会って色んな人と触れ合い、傲慢な世の中を沢山知りなさいと」
猫の姿をした行商人。
それに出会った人間は、まずどんな反応を示しただろうか。
決していい事ばかりではなかった筈である。
それでも、歩み寄る努力を怠らずに懸命に頑張ってきたのだろう。
―――そう考えると、ロク介のこの無駄に明るいキャラも理解できる。
「だから人間になる為、その願いを叶える為に、人の幸を集めて旅しているんです」
「?ロクちゃん、さち、ってなぁに?」
「幸せ、という意味ですよ。貴女も先程笑ってくださった、それこそが最大の幸に他ならりません」
「・・笑う門には福来る、か?」
「ガン、君の言う通りかもしれません。僕は馬鹿かもしれません。でも、それは無駄じゃない。僕にとって無駄なんかじゃないんです」
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