クスリ売りの行商人

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確か、人間が伝える逸話にも似たような話があった―――そんな事を思い出しながらも、ロク介の話は続く。 「僕が集めている幸、というのは、お客様から頂く『大事な物』が報酬となっております。幸を集め歩いているとはいえ、形なきものですから」 「待て待て。それじゃおめぇ、ただの押し売りだろ」 「お金を寄こせと申しているのではありませんよ」 「そうじゃねぇ。そういうのは、最初に提示し合ってから交渉が始まるもんだろ。お前の場合、勝手に笑わせただけで―――」 「何でもいいのです。愛着があって大事にしているものならば。決して肌身離さず持ち歩いている物を懇願している訳ではなく、見つめれば微笑む事のできる髪飾り一つでも充分なのですから」 先程から箱の中にあった手鏡を離さないありさは少し考える仕草を見せ、そして困った表情で鏡の中に映る自分を見る。 「あのね、私大事なものなんてないの。この御洋服もお部屋の中にあるものも、全部お母さんが買ってくれたものだから。お母さんの趣味だから、私のものじゃないの」 それでもあるとしたら―――と言葉を続け、ありさは隣の猫を見る。 さっきは自分を守ってくれた騎士猫を。 「お、俺かっ!?」 驚くのも無理はない。 だがガン同様、ロク介も目を丸くしている。 「これは困りましたね。ナマモノを差し出されるのは初めてですよ」 「ナマモノ言うな!」 「パプ~はね、私が泣いてる時もいつも傍にいてくれるの。泣いてる私に何か言ってくれてるけど言葉は分からなくて、でも―――」 彼女がガンと言葉を交せるとしたら、きっと驚くだろう。イメージしていた猫とは違い、言葉遣いの悪い荒れた性格の猫で間違いない。だがロク介はその言葉を押し留める事に成功したようで、少女の言葉の先を催促した。 「でも、何でしょう?」 「守ってもらってばかりだから、強くならなくちゃって。いつもパプ~に甘えてばかりだって本当は分かってるの。今日もお母さんに噛み付いてくれて、本当は私が立ち向かわなきゃいけない事なのに」
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