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とある世界のとある場所で、それはとても奇怪に珍しい姿をした商人が売り歩いていた。
だが西洋にも似た街並みを過ぎる人はその存在に目を向けるでもなく、まるでそこに『ない』かのように通り過ぎるばかりだ。
身の丈は幼い子供ほどだろうか、ゴシックな帽子を被って古風な探偵にも似た衣装。
和風な緑の風呂敷に包んだ荷物を大事そうに背中に背負う彼―――いや、そのオス猫である。
「やぁれやれ、人間の世界は相変わらずごちゃごちゃしてますねぇ」
ふと見上げれば、太陽はいつの間にか過ぎていた。
代わりに姿を見せ始める夕闇が確認でき、彼の金色の目も本領発揮だとばかりに光り始めていく。
路地裏に進めば幾らでも食糧が調達できるが、この人ごみだけはどうにかならないだろうか―――そんな呑気な事を考えながらも、現金な体はポリバケツに半身埋めるように残飯の美味を味わっていた。
「おい、そこのヨソ者。おめぇ、この辺の野郎じゃねぇな?」
うん?と口周りに食べかすを付着させたまま声のする方向へ見やるも、背負った荷物が重すぎたのかそのまま地面に後ろから落ちてしまうのだった。
それには声の主も呆れたらしく、軽快な音で降り立ち、傷の目立つ野生の目で行商人の彼を眺める。恐らくはこの辺を縄張りにしている野良猫だろう。
「あぁ、いい星が眺められるなぁ。人間の世界もまだ大丈夫そうなんですけどねぇ」
「いいから起きろよ、おめぇはよ」
「いや、それがですね?起きれないと申した方が早いとでも言いますか」
「そんな重そうな荷物を首に括ってっからだろ。その紐を解けばいいだろうが」
「もう少し待ってください。もう少しで、今頂きました栄養素が体内に行き届きますので」
「あん?」
ガラの悪そうな、けれども根からの悪人でもなさそうな相手は不思議そうな表情を広げている。そして行商人の恰好をした彼の言葉通り待つ事1分弱。
突如としてその金色の目がビームのように光り輝いたのだ。
「とぉっっ!!」
そして、先程まで倒れていた体勢から華麗に回転ジャンプを披露。
星の輝きを背後に、それはまるで幻想的な風景の一つにすら魅せるだろう。
―――そして華麗なる動きのまま、無駄な動きは一切なく着地に到る。
そのハイレベルな動きには野良猫も感嘆詞を洩らすばかりで、猫の端くれでもここまでの技術を持つ奴はいないだろう。
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