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「す、すげぇな、おめぇ!サーカスの飼い猫か!?」
「・・・」
着地のポーズのまま、俯いては無言のその様子が気になったのだろう。声をかけてみるも、返事は唱えられないままだ。
「お、おい?どうしたよ?」
「・・足首を痛めてしまいました。薬を頂けませんか」
なんとペースの乱される奴だろうか。
呑気が売りの小動物でも、ここまでマイペースに他人を疲れさせる奴も珍しい。
「薬だったら、てめぇの背中にあるだろうがよ!行商人だろう!?」
「ああ、これは薬ではありませんよ」
「あ?薬売りじゃねぇのかよ?」
「クスリ売りですが、薬売りではありません」
「・・は??」
そしてコホンと一つの咳払い。
「荒んだ社会に救世主はいつでも求められている!心の隙間を些細な笑いで救おうという趣旨の元派遣された『クスリ』売りのロク介と申しますっ!」
新手のヒーローショーだろうか。
細かく大振りで動くポーズだが、元が猫なのだからこれといった効果は見えない。
呆然とそれを見守るのだが、目の前のロク介はやり切った感で満ちている。
「ロクな目に合いそうもない介?」
「ロク介です!なんならテイク2いきましょうか?」
「いや、やめてくれ。色々と痛いから」
「そうですか?結構楽しいんですけどねぇ」
「まさか、その自己紹介シーンは自分で考えたのか?」
「はい。人間はこういうアクションヒーローものが流行っていると聞いたので。オーバーなアクションと豪快な設定説明、それだけで盛り上がるそうですよ」
「・・・で、薬が何だって?」
「クスリ、です。間違えないでください」
「だから―――」
「僕の姿が見えるという事は、貴方も窮屈な心を生かされているのでしょう。本来は人間しかお客にしないのですが、声をかけてくださったお礼に一クスリお聞かせしましょうか?」
「・・・・」
思う所があるのか、彼は少し目を細めて無言が包み込む。到ってマイペースに明るいキャラを崩さないロク介は返事待ちといった所か。
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