13人が本棚に入れています
本棚に追加
「派遣だとか荒んだ社会だとか・・・本当の話なのかよ?」
「嘘は申しません」
「どこから派遣されて、誰に依頼されてるんだ」
「う~ん、その辺りのシステムを説明するのは些か面倒ですねぇ。何せ、流浪人のようなもので、出会った土地で活動しているようなものですから」
「旅人って事か?」
「はい、人の心を救済しながら」
「だったら話がおかしいだろ。派遣ってのは雇い主が仕事先に人材を寄こすもんだ。お前の話を聞いてると、自分勝手な気まま旅行にしか聞こえねぇ」
「ですから、些か面倒だと申したんですよ。世界の人口はどれぐらいかご存知ですか?」
「猫が知るわけねぇだろ」
「何万人、なんて数ではありません。億単位です。その中で、どれぐらいの人が『満足』を得ていると思います?生活の不満、社会の欺瞞、不条理な都合、誰もが社会の歯車に振り回されて生きているんです」
「なんだ、急に哲学かよ?」
「ですから、全ての人を救済する為にはこうやって地道に売り歩くしかないんです。そして、心に救済を求めている人にしか僕の姿は見えませんから、鴨がネギ背負ってやって来た~って具合に」
「最後のセリフがなけりゃいい話なんだがなぁ」
「まぁまぁ、そう仰らず。ともかく、僕の姿が見えている以上は救うのが僕のお仕事」
「・・いや、俺はいいんだ」
「?」
仕事を始めるかとばかりに風呂敷を下しかけた時、どこか言い難そうにする表情が目の前に広がっていた。ロク介の話を信じたのか、勢いに流されたのかは分からないが―――
「俺は飼い猫なんだ。その、どうせやるなら飼い主の娘さんにしてやってくれないか」
「飼い猫さんだったんですか?それにしては随分と横暴な態度で出てこられましたけど」
「内猫だが、基本的に出入りは自由な家なのさ。夜まで住人は帰ってこないし」
「はぁ、成る程。その間に縄張り争いに精を出しているんですね」
「一言多いんだ、てめぇはよ」
最初のコメントを投稿しよう!