クスリ売りの行商人

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※※※ 一見、普通の一軒家に連れて来られた頃には住人も帰宅していたようで、香ばしい夕食の匂いがご満悦な表情を誘ってくれる。 場所にしてどの辺りだろうか、先程の路地裏から猫の足で15分程度の郊外の一角である。住宅街のような風景を見渡す限り、随分と落ち着いた雰囲気で満たされた場所だ。 家族持ちが集った場所だけに、子供の甲高い声が時々夜空に響き渡る。 「ほぅ、これはこれは。普通すぎる程に普通な一軒家」 ガレージには1台の車、門周辺には色とりどりの花が添えてあったりと、見た目的には本当に普通だ。プレートを見やれば『岩谷』と記されていた。 「いわたに・・・・ではガンちゃんですね」 「おい、それはもしかして俺の名前か?」 「名前がないと不便ですから。それより、そのお嬢さんに僕の姿が見えてもらわないと困るんですが」 「おめぇの話が本当なら、絶対に見えるだろうさ」 心に溜息を持っている人にしか見えない、というなんとも大雑把な説明だけでは納得のしようもないのだが、こんなにも胡散臭い行商人を招き入れるガンは藁にも縋る気持ちなのかもしれない。 「ありさちゃん、っつーんだけどな。まだ6歳の女の子だ」 「ポニーテールが似合いそうな名前ですね。・・・いえ、続けてください」 正面玄関ではなく、家の囲いに沿って歩きながら裏庭へと進む。 1階からは少しの光も漏れていたが、どの窓もベランダもカーテンで遮られている為、中は窺えない。そしてガンはその脚力で2階のバルコニーまで上り、ロク介も続く。 「あぁ、これはこれは可愛らしい女の子で」 どうやら、降り立ったベランダ沿いが女の子の部屋らしかった。 母親の趣味なのだろう、淡い色で染め上げられた一室。そしてベッドには、ふさぎ込むようにして微動だにしない少女が座り込んでいる。 「1年前に親父さんの浮気がバレてからというもの、家族内は会話なんて一切ありゃしねぇ。親父さんも最初は反省の色を見せてたんだが懲りずに同じ相手と浮気を繰り返し、おふくろさんは完全に見切っちまったらしい。それでも両者共に離婚はしないの一点張り、まだ6歳の娘に毎日旦那の愚痴を語る母親、最悪だろ。おかげでありさちゃんは滅多に笑わなくなって言葉も減り、ずっとあーやって塞ぎこんでばっかだ」
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