クスリ売りの行商人

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勿論、案内人のガンは少女にとってはただの猫のままである。 まだ疑っているのかガンは不審な視線を寄せ、それに気づけば風呂敷を背負った派遣猫は苦笑した。 「そこの鏡を見れば一目瞭然ですよ。僕の姿は映ってませんからね」 「・・!」 6歳の少女の部屋には似つかわしくない全身鏡。そこには、ベッドからおりてカーペットの上に座り込むありさと、ガン、その二つの存在しか映り込んでいなかったのだ。いや、角度が悪いワケでも何でもなく、本当に鏡の中にロク介は住んでいない。 「さて」 納得してくれた頃を見計らい、ロク介はわざとらしい咳払いをした。 その瞬間、何故か嫌な予感が走る隣のガンは―――これほど野生の勘が当たった事はないだろう。 しかしガンが止めに入る隙もなく、そのアクションヒーローものを真似たらしい自己紹介は勝手に展開されていた。 「荒んだ社会に救世主はいつでも求められている!心の隙間を些細な笑いで救おうという趣旨の元派遣された『クスリ』売りのロク介と申しますっ!」 場所が室内の為か、裏路地で見せられた時のように跳ねたり飛んだりはしなかったが。 そして一定のポーズのまま固まる事数秒。 ようやく聞こえてきた少女の拍手でようやく固定ポーズを収めるのだった。 「わぁ!すご~い!ねぇねぇ、私とお話してるのっ?」 「勿論でございます、お客様。こちらのガン―――もとい、パプ~・・ぷぷっ・・に、依頼を受けまして、貴女へクスリを売りに参った次第で御座います」 「・・おいロク介、今てめぇ笑っただろ」 彼はツッコミ体質なのだろうか―――と脳裏で考えるが、口にすればまた怒られそうなのでやめておく。 「くすり??くすりって、お薬の事?」 「心のお薬でございます、お客様」 まるでどこぞの貴族のように、軽い風のように優雅なステップで会釈する。 「クスリと一笑いで心に風穴が開き、クスリともう一笑いで花が咲く。3・4がなくてもう一笑いで蝶の舞う花畑となりましょう」 ペコリ、と綺麗なフォームでお辞儀をし、多分はこれも用意されていた芸の一つなのだろうとガンは一人思う。
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