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ツッこむのも疲れたのか、ここからは観客に興じる姿勢でベッドの上に軽く乗り、そのまま体勢を崩していく。どうせ自分の言葉はガンにしか通じないのだ、何を言っても少女には猫のうるさい声にしか聞こえない筈である。
「ガン・・じゃなかった、パプ~から聞いた話ですと、そのお歳で大変苦労なさっているとか」
「いいなぁ、パプ~とお話できるんだ!・・えっとね。私さえいなかったら、こんな家さっさと出て行くのにって」
「・・・それはそれは」
まだ6歳の子供にその意味がどこまで理解できているのか―――だが、それでも子供に植え付けられるのは孤独以上に寂しい排除的存在感である。
「ねぇロクちゃん、お父さんとお母さんの仲を良くして?」
「僕はただのクスリ売りですから。その本格的な悩みは当人同士で解決して頂かないと」
「え~?だって、ニャンコが喋ってるんだから神様の御遣いじゃないの?可哀相な私の願い事を叶えに来てくれたんじゃないの?」
「結構したたかに我儘ですね」
被害妄想の欠片を感じる辺り、恐らくは母親から影響を受けているのだと思われる。情操教育に悪い環境だ―――と頭痛を感じるのは他人だからできる事であり、本人達は自分達の事で一杯一杯に違いない。
周囲に気を配る余裕がないからこそ娘に不満をぶつける母親と。
自分は恵まれていないと見せ付けられる家庭の中で耐えるしかできない少女。
そしてまた、その中で飼われている猫も随分と荒れた性格だ。
全く以ってどこまでも崩壊を進むしか道のない家庭だ。例えここで父親が改心したとしても、最早家庭の中に信頼感などないだろう。
一度離れてしまった心は簡単に取り戻せる筈もない。
「ねぇねぇ、ロクちゃんは一人で来たの?お父さんとお母さんは?」
「いえ、僕の両親は―――」
気まずそうに、ロク介にしては珍しく顔を俯けていた。
さすがのガンもこれには驚いたらしく、ベッドの上から興味津々だとばかりに身を乗り出してすらいる。
「あ、ごめんなさい。もしかして、死んじゃったの?」
「すこぶる元気に生きてます」
「生きてんのかよっ!!」
けろっと即答され、傍観を決め込んでいた猫は勢い良くベッドからスライディングを決めるように転倒するのだった。
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