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「今の、笑えませんでしたか?」
「どこがだ!」
「う~ん、やはり感性の適合は難しいですね」
「―――・・っ・・」
何か、息の詰まるような―――かみ殺したような息の欠片が聞こえたような気がする。
さすがは猫の耳と称するべきか、二人―――二匹は顔を見合わせるようにした後、今の掠れた音の主を探す。
だが、それは探すでもなく次の音声で真正面から届いた。
「ぷっ、あははは!ロクちゃん、おもしろ~い!あははは!!」
「・・ありさ、ちゃん?」
これはガンだ。
突然腹を抱えて笑い出す少女に、ツッコミも忘れて目を丸くしている。
そして隣の商人を見やれば、どこか安心したような暖かい眼差しで少女を見守っていた。
「・・・やっと、笑って頂けました」
「おいロク介、まさかお前」
「僕はクスリ売りですから。クスリを買って頂くには会話しなければ始まりません。尤も、今回は相手が子供だけに警戒心もなくてやりやすい仕事ですよ」
「やっぱりおめぇは一言多いんだよなぁ」
感心しかけたのも束の間、シビアな商人だ。
「ちょっと、ありさ!!何してるの!!」
ドアの向こうから、階段を激しく踏みながら怒声が届いてくる。
そしてこの部屋の前でドアを数回殴ったかと思いきや、遠慮なくそれは開かれた。
「下まで聞こえてきたわよ!母親が大変な時に、何一人で笑ってるの!」
「ひ、一人じゃないもん・・・」
「ああ、パプ~もいたのね。まったく、誰かさんに良く似て、そこらじゅうに出かけては巣を作って帰ってくるんだから!」
「人間は縄張りを巣と呼ぶんでしょうかねぇ」
「俺が知るか。・・ったく、また始まったぜ」
喧嘩腰のガンにしては珍しく、呆れた表情でベッドの上に寝転がる。
ありさは母親の遺伝をそのまま受け継いだのだろうという事がよく分かる程に、母親にそっくりだ。もちろん、性格や中身でなく風貌が。
子持ちにしては少し派手な衣装を身に纏い、酷く尖った表情。神経が異常に敏感なのか、些細な事すらも我慢できない性格。
ありさの視線から見れば、これでは自らに劣等感を感じてもおかしくはない。
全く以って、子供に悪影響な環境である。
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