紫の黄昏

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それからしばらくしてやってきたお得意様 私はいつものように笑顔で迎える。 「いらっしゃいませ」 「妃水ちゃん、お久し振り」 「はい。ようこそいらっしゃいました」 「あら、ラベンダーのいい香り…」 「お客様が好きな香りだとおっしゃっておりましたので」 「気が利くのね」 「そんな事ないです。さぁ、どうぞ」 「ありがとう。今日はちょっと同伴がいるんだけどいいかしら?」 「え、えぇ…」 まさか付き添いがいるとは聞いていなかった。 私はもう一人分のお茶を用意するためにカップに手を伸ばした。 「いらっしゃい」 お得意様に声を掛けられて、入ってきた女性に私は思わず手を止めた。 忘れもしない…あの勝ち誇った表情 「私の姪なの、実は彼女に関して相談したい事があって…」 紛れもなく私達夫婦を崩壊に導いたあの愛人だ。 「…」 私は気付かれないように、顔にかけた紫のベールを深めにかぶり直す。 カップを彼女の前に置き、口許だけで微笑む 「どうぞ」 「ありがとうございます…」
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