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音楽の先生になりたいと思ったのはいつだったか。多分合唱部を続けるうち、自然に目標が決まっていったんだと思う。
とにかく私は、歌うことが大好きだった。自分の声が変わって行くのが楽しい。もっと変えて行きたい!
そう思ったから、高校に入ると同時に歌の先生につくことを決めた。
独唱。
これからは合唱部のみんなは助けてくれない。私ひとりで歌うんだ。
「坂江翡翠…翡翠か。えらい豪華な名前やね」
歌の先生が、私の名前を呼ぶ。
年は多分30代後半くらいかな。綺麗なテノールの男の人だ。よく響く関西弁は、この人はきっと明るい人なんだと思わせる。
「個人レッスンは週一回30分。その他に、うちで習ってる子全員でソルフェージュの授業が週一、三時間!」
「ソルフェージュ…ええと、」
「音楽の基礎の勉強て感じやな。作曲の理論やら、音感を鍛えるやら。まあ、テキストわたすから見といで」
そう言って渡されたテキストの分厚さと言ったら。
肩が凝りそうだけど、勉強は得意だ…と思う。うん、頑張ろう。
「あと、高1やんな?今日これからもう一人同い年の女の子がくるけど、挨拶しとく?」
「えっ!い、いえ…私は、これで…」
同い年の女の子!冗談じゃない!
私はとにかく人見知りで、話せるわけがない!
しかも私はどうしてなのかあまり女の子から好かれない。初対面から嫌われでもしたら…!!
ピンポーン。
「ああ、来たわ。」
逃げられない。私はちょっと青くなってから、腹をくくることにした。
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