翡翠と綾葉

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『綾葉』はぐいぐいと身を寄せて話しかけてきたけど、嫌な感じは全くしない。私もこんな風になれたら。初対面なのに、そう思った。 どうやら『綾葉』は、先生に課題曲をもらいに来たらしい。 コピーを渡された後、二人揃って先生の家を出た。 駅までの長い道を、二人並んで歩く。歩道に並ぶ桜はもう満開で、風に合わせて花びらがひらひらと舞った。 「翡翠はさー、彼氏いる?」 「や、いないよ、ずっと」 「なんで?!絶対もてるのに!!」 …もてるのにって、なぜ断定。 「…モテない」 「モテるよ!!めちゃくちゃかわいいもん!髪も黒髪ストレートであたし好みだし、その制服城光でしょ?頭もいいんじゃん」 …そんなに褒められたら、どう反応したらいいかわからない。 「あんまり、褒められるの苦手?」 「えっ…」 びっくりした。なんで分かったんだろう。 「翡翠くらい綺麗だと、褒められて気分よくしてたらやっかまれそうだもんね…」 「そ、そんなことない!」 「あ、嫌味じゃないよ。ほんとに。…いろんなひとに気を使ってるんだね。優しいんだ、翡翠は」 …呆然とした。 この子はなんて、おおらかなひとなんだろう。 「駅ついたけど、反対方面だよね。…じゃ、あたしはこっちだから」 綾葉の後ろ姿が小さくなる。このままでいいの?あの子と、友達になりたいんじゃないの? 内向的な自分を、奮い立たせる。 何か、言わなきゃ…!!
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