いない存在

2/4

241人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
周りでは黒い服を来た大人たちが泣いている。 そう、江角啓吾が車に跳ねられ死んだのだ。 私は泣くこともせず、ただぼーっと突っ立ってるだけだった。 一度に色んなことがありすぎて、私の頭の中が整理出来てないせいもあるだろう。 親戚や両親…友達や先生。 皆皆泣いている。 写真の中のアイツはいつも通りの笑顔を見せて、皆に笑っている。 「ねぇねぇ、お母さん」 頭がぼーっとしながら、声のする方へ向くと、小さな可愛らしい女の子が泣いているお母さんに首を傾げていた。 「どうして泣くの?お兄ちゃんは凄いね…!ほら、お兄ちゃん大きい!!…でも、皆何で泣いてるの?」 5歳くらいの女の子だ。 何が起きてるか分からないのだろう。 女の子の目には、自分の兄が大きな写真で飾られていて、大勢の人が集まっている。 自分の兄がもう二度と帰ってこないことを理解出来ず、ただ自分の兄は何か凄いことをやったんだと思い込んでいる。 母親はその小さな不思議そうな顔をしている娘を、力強く抱き締めた。 その瞬間、私は何か頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。 今すぐ土下座して、謝りたい気持ちにかられたのだ。 誘ったのは江角。 だけど、私に出会わなかったら…あいつは死ぬことなんて無かったんだ。焼香をあげたり、拝んだりした。 今は、皆花を一輪ずつ持ち、江角の棺の中にそっと置いて、泣き崩れる人や別れの挨拶をする人、今までの思い出を泣きながら話す人それぞれだった。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加