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指の先を矢に添えて、腕を思い切り後ろに引く。
まっすぐに狙いを定めた。
心地よい緊張の中、ゆっくり息を吐いた。
目指すはあの少女の左胸。
手を離した。
矢は空を切り裂く。
矢が少女の心臓を貫いた途端に、長いまつげをたずさえた大きな瞳がこちらを見た。
私の隣に立っていた少年は、驚いたように目を見開いて顔を赤くする。
あとは自分で頑張れ、純情少年よ。
私はそっと弓をおろすと、純白の羽を振るった。体がゆったりと浮き上がる。
頭の上の輪っかが揺れるのを感じた。
雲へ飛び立つ。
熱をはらんだ風が肌をなでるのが心地よい。
ひざ丈まである、ちょうどワンピースのような白服がなびいた。
「……はじめ、まして」
強張った幼い少年の声が背後から聞こえて、私はそっとそちらに目を向けた。
耳まで赤く染めた少年が、まっすぐに少女を見つめている。
きっと彼の喉は、からからに乾いていることだろう。
蝉が激しく鳴きたてている。
熱い太陽は二人の身を焦がそうとするかの如く、さんさんと照りつけた。
いいねえ、青春。
ついついにんまりとした笑みをこぼしてしまう。
少女の心臓に少年の熱を伝えた矢が、ゆっくりと雲散するのを見ながら思う。
これは私の天職だ。
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