4/10
前へ
/10ページ
次へ
  知らない内に見られていたことを思うと恥ずかしい。 羞恥に染まる顔を自覚しながら尋ねる。 「さっき、先輩に紅茶作ったんです。で、持ってきたら先輩がにやにやしてたんで、ずっと見てました」 悪気のない顔でエリーちゃんは笑う。 頭上の光る輪が、頷くように揺れて見せた。 「ほら」とまっしろいカップを渡されたので、私は「ありがと」と答えてそれを受け取った。 彼女の紅茶は美味しくて、好きだ。 「で、今日の仕事相手はどんな子だったんですか?」 「すっごく可愛い子よ」 思い出すとまた顔がゆるゆるになってしまう。 抑えようとするのだが、どうしても無理だった。 あの少年のことを思い出すと心が温かくなる。 お腹の奥から歓喜がせりあがってきて、ここが職場じゃなければ万歳三唱でもしているところだ。 「男の子でしたっけ?」 「そうそう。隣の家の子に恋しててね」 「可愛いですねえ」 「でしょう?」 ああ、幸せ。 やはりこの仕事は私に向いている。 非常に満足だ。 カップに口づけて、甘ったるい紅茶を堪能した。 どろどろに溶けた砂糖は、疲労した私の体を巡っていく。 気持ちいい。 体がほぐれていくような気がする。 「おい、ネコ」 その時、不愉快な呼び名が私の鼓膜を揺らした。 反射的に眉をひそめてしまう。 声のした方に、瞳だけをぎょろりと向けた。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加