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  「……ミヤだって言ってるでしょう」 「だからミャーだろ。ミャーって猫の鳴き声にそっくりじゃねえか」 そういってケラケラ笑うのは、私の上司である。 黒い縁の眼鏡の向こう側が細められていた。 そこにはからかうような光が灯っている。 私の名前は、ミヤだ。 「なんか響きがいいから」という単純明快な理由で与えられた名前である。 それがとりたてて嫌なわけでもなく、かといって気に入っているわけでもないが、こうもあからさまにからかわれると反感を覚えた。 悔しくなった私は小声で、しかし彼に聞こえるように言った。 「自分はアルプスの少女のくせに」 「あ? お前なんか言ったか」 「べっつにー」 彼の名前はハイヂなのだ。 なんでも彼の両親が、仕事の為人間のそばに寄った際に見たアニメを大層気に入ったらしい。 そう、アルプスの少女ハイジだ。 非常に有名なアニメで、私も下の世界で見たことがある。 あれは本当に良いアニメだ。 職務を忘れて泣いてしまうほどに。 しかしこのいけすかない上司にとって、そのアニメの名は聞きたくもないものになっているようだった。  
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