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エイプリールフール
玄関先で森口匡(もりぐちただし)は重ねた唇をそっと外した。
愛しの妻にお出かけのキスをする。
それが毎朝の日課だった。
匡は周囲も一目おく愛妻家。
でも人こう言う。
ラブラブならぬ、バカップルだ。
と。
二人はただ、照れずにキスをする。
それが謂れだった。
愛していれば当然のことだと二人は思っていただけなのに。
「じゃあ行ってくるよ」
今度は腰を低くする。
「ママを頼むよ」
そう言いながら、臨月間近いお腹をさすった。
今日は四月一日。
匡の勤めている会社でも入社式がある。
それも東京にある本社で。
だから匡は今から出張しなければならないのだ。
空は鈍より曇ってる。
(雨にならなければいいな)
匡を見送りながら思った。
朝一番のバスに乗り、匡は駅に向かう。
何時もより大きめのショルダーバッグには小さな折り畳みの傘。
それらをもう一度確認しながら匡は東京へと急いでいた。
「雨にならなければいいな」
こんどは匡が言う。
以心伝心。
二人は本当に仲良し夫婦だった。
久しぶりに駅で新聞を買う。
入社式のスピーチようのネタ探しだった。
でも匡の買うのは決まっていた。
《エイプリルフール特集》が掲載されているあの新聞だった。
「何何……、ヘエー」
人の迷惑省みず、匡は記事に没頭する。
そして頭の中では、どのようにして話題を広げて行くかを模索していた。
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