78人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
――よく、蔑まれたものだ……。
自分は王族である為に、目立たないから良かったものの、絶対に陰口を叩かれていたに違いない。
歌わない、笑わない王女と。
恥知らずの王女と。
人魚ではない、人形だと。
「……」
口を閉じ、目を細めた。
――……興醒めだ。
だが、その時だった。
『パンパン』と手を鳴らす音が聞こえたのは。
「ッ!?」
ルナはハッと我に返って、辺りを見回した。
人間に見つかったのか、と不安に思って。
だが、次に聞こえてきたのは能天気な声だった。
「こっちこっち! 上だよ! ほらほら!」
バッと顔を上げると、崖の上の野原で寝転がっている青年が居た。
ボサボサの黒髪で、小麦色の肌。
見たことがなくても、下半身を見ればわかる。
ケンタウロスだ。
青年はニッと笑っていた。
太陽のように眩しい笑みだった。
それは、笑えない人魚と脳天気なケンタウロス――二人の運命を変える出会いであった。
最初のコメントを投稿しよう!