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私は先陣を切って振り下ろされた爪を半身でかわすと、横手からそいつの首筋に強烈な手刀を叩き込んだ。その衝撃に頸骨を砕かれ、地面でバウンドするバンキートに、さらに掬い上げるように蹴りを放つ。空中へと放り出されたバンキートは、空中でまた血飛沫をあげてあらぬ方向へ吹き飛んだ。
他のバンキートの放った飛爪が、死した仲間をさらに串刺しにしたのだ。
しかしそれでも、バンキートは気にせず襲いかかる。
低級悪魔の知能は本能とほとんど直結しているから、仲間を思う気持ちなどないのだ。それは低級悪魔特有の強みでもあれば、逆に弱みでもある。
大切なものを奪われた怒りというものは、生物の限界を超えさせるからだ。
「キシャアア!!」
と、残った悪魔が雄叫び上げて私を取り囲んだ必殺の瞬間。
私は、自分の中で押し隠している気配を解放した。
風が止む。
「――っ!?」
空気の流れすら凍り付かせるその気配に、バンキート共は一瞬動きを止めた。
正確な原理はわからない。
ただ私はそれを『竜の影』と、呼んでいる。
私自身得体の知れない所業だが、雑魚相手には効果は抜群だった。
人間のものではない圧倒的な存在感と威圧感に、悪魔は瞬間的ながら神経の麻痺を引き起こす。
私はその一瞬の内に、背中の双剣に手を伸ばした。
――彼らは、私が剣を振るったことに気付いただろうか。
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