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この闇夜の月光のような美しい青年の名は、スルト・ヴィフォルス。
この私だ。
「まぁ、こちらとしても困っていたところだった。双方、運がよかったということか」
「困ってた風には見えなかったがな」
セバスチャンはこちらに振り向いて頬を歪めた。
「街を出る時、お前さんらは旅の資金のことばかり話してたじゃねぇか」
「それはレイの金遣いが荒すぎるから説教していただけだ」
「なんだとこの野郎…」
レイはすかさず反論したが、やはり声が重い。
元気だけが取り柄のこの男にしては珍しい。しかし、その理由は決して清潔なものではない。
昨日の夜にいかがわしい店のベットの上で頑張ったようだから、こうなるのも当然というものだ。
まったく、出発前日に馬鹿なことをする男だ。
それに激しい運動をしている隙にその日の持ち金を奪われたというのだから、笑い話にもならない。
「俺が稼いだ金をどう使おうと勝手だろ」
「勝手ばかりだな。言っておくが、稼いだ金は私のものでもあるのだぞ」
「ふんっ。耳ダコだ、クソじじい」
じじいとはひどい。私がむっとすると、
「ま、俺がいてよかったってことじゃねぇか。な?」
口論を止める隙を伺っていたセバスチャンが、すかさず割って入る。
このくらいの口喧嘩ならば日常茶飯事なのだが、一般人には殺し殺されたの果たし合いに見えるのだろう。
旅人同士の友好を保つのも森の案内人の仕事なのだ。
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