ぷろろーぐ

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 オリジナルの術式は公開されておらず、春花は見よう見真似でなんとか形になるまでこぎつけることができた。  この風の帯一つ一つは集約されたいくつもの弦であり、その弦を震わせることで音色を紡ぎ出す。  レプリカと名乗れる程度には出来上がっているはずだ。 「そこまで」  止めの合図で“カゼウタ”を霧散させる。解き放たれた風の帯はやがて空気に混ざって消えていった。 「よしオッケーだ。次、九条!」 「はいっ!」  続けてみゆが呼ばれて春花と交代になる。 「みゆも頑張って」 「ありがとうハルちゃん」  見送り、そして胸をなで下ろす。緊張で額からは結構な汗が滲んでいた。  “カゼウタ”を作った本人の前だから……いや、もっと大きな別の理由で。 (先輩……)  春花は尊敬する悠真のことをそう呼んでいる。年が近いし、それ以上に先生と呼ぶと遠く感じてしまうから。  目が合う。  悠真は柔らかい表情で微笑みかけてくれた。 「はうっ!?」  ドキッと心臓が大きく高鳴る。ドキドキと、バクバクと。 (先輩が、先輩が、私に笑いかけてくれた! どうしよう嬉しすぎてどうにかなっちゃうかも……!)  尊敬する以上に大好きな人だから。  もう春花のテンションは有頂天まで昇って目が離せなくなってしまう。 (みゆの魔法はもういいや。ゴメンね)  本人が聞いたら真ん丸の目をさらに見開いて驚くだろう言葉を内心で呟き、春花はこの喜びに浸ることを決めるのだった。
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