序章:4月2日~ある男の体験した出来事~

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 ───何事も科学の前には太刀打ち出来ない。  どこかの学者がそう言ったのを聞いたのは一週間前。  大企業との契約を成功させた、青年と言うには年が行き過ぎた男は、契約成立の打ち上げから帰り誰もいない自宅のテレビでそれを見ていた。 『このご時世、何事も科学の前には太刀打ち出来ません』  液晶のテレビ越しに偉そうな態度の学者は、確かにそう言った。 『なるほど、では幽霊やUFOなども科学で証明出来ると?』  番組の司会者が知識の欲求か、番組を進行させる為なのか分からぬが、偉そうな学者に質問した。 『当たり前です。幽霊など、見たと言う人物の思考がイメージとして作り上げた幻想であり、実在する訳ではありません。…それはUFOも同じ事。ビデオカメラに映された映像など、世間の注目を浴びたいが為の合成に過ぎません』  偉そうな学者は自信満々な表情で、自らの理論をさらけ出した。  冷蔵庫から出した缶ビールを片手に、男はテレビ越しの学者に対し同意するように「うん、うん」と、頭を立てに振る。  オカルトと言うものを今まで信じていない男には、この学者の言い分が正しいと思っていた。  信じていないからこそ、今日まで心霊現象など体験したことはないし、UFOも見た事はない。  つまり存在しないのだ。存在しないものをどう証明すると言うのだろう。男にはオカルトを信じる者の気が知れなかった。  会社の同僚にもオカルトを信じる者はいるが、皆確たる証拠も無しに言っているだけで理解出来ない。 『なるほど。随時と自信満々に言いますね』 『当然です。全ては科学で証明できるのですから』  そこまで見て、男は急激な睡魔に襲われ重い瞼を閉じた。  誰もいないリビングに、いつまでも続く司会者と偉そうな学者の討論だけが響いていた。
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